晴耕雨マンガ

4月は、六道の悪女たち、スピーシーズドメイン、ヴィンランド・サガ

竜のかわいい七つの子 の感想

九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)
(2012/10/15)
九井諒子

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九井諒子、約1年半ぶりの単行本『竜のかわいい七つの子』が発売されています。コミックナタリーでカバーイラストの製作過程などが公開されていますので、よろしければそちらもご覧いただけると、より深く作品世界を知ることができるかと思います。
コミックナタリーの特集

・竜の小塔
人と竜の話。戦争中の山国と海国を隔てる関所の塔の上に竜(見た目はグリフォン)が巣を作ってしまったため、休戦状態&物資不足に。山国には塩がなく、海国では野菜が育たない。竜の巣の下を唯一通過することができる海国の戦士サナンと、山国の少女ユルカを中心に話が展開していきます。戦争中の暗いムードのエピソードを丁寧に積み重ねているから、竜の巣立ちのシーンの盛り上がりにつながっていると思う。フェローズではじめて読んだときは、衝撃を受けました。

・人魚禁猟区
人と人魚の話。『人魚に人権はあるのか!?』ということが社会問題になっている日本の田舎町が舞台。主人公の準は、通学路の脇に倒れていた人魚を助けたことから、友人の浜君とのあいだに気まずい空気が流れることに。なぜか山の上の学校に行きたがる人魚を助けようとする準と、親が人魚を車でひき殺してしまったことからいわれのない中傷を受ける浜君。言葉が通じても考えの違いがあるが、言葉の通じない人魚とでも分かり合えることがある。というところからの人魚の行動は、かなりショッキングだった。ただ、それでも準が前向きな答えを見つけてくれたのが良かった。

・わたしのかみさま
人と神様の話。カバーでメインをつとめている、つくも神が見える女の子の雪枝が主人公。マンション工事のために居場所がなくなってしまった野山の神(魚の姿をしている)を水槽で守ることに。特に、上手くいかない中学受験に雪枝がナイーブになっている描写が素晴らしかった。「頑張ってもだめだったら ぜんぶ無駄になっちゃうの?」「もし全部だめだったとしても 私はちゃんと私になれる?」のあたり。あと、本編後のオマケイラストで水槽を洗っている雪枝が、なんかカワイイ。

・狼は嘘をつかない
人と人の話。まず前半に、WWS(狼男症候群)という病気の子供を持った母親の育児エッセイマンガ(梅谷ゆかりの『我が家のワン!ぱく息子』)があって、後半で、その成長した息子の苦悩を描くという構成が良かった。狼男という部分に気を取られがちだけど、それを除いた親子関係の問題は現実にもよくあることだし『思っていることを素直に口にしてみる』っていう解決方法も、実際に使えるもの。こういう、日常の問題とファンタジーの融合具合が、やっぱり作者の持ち味だなと再認識させられる。

・金なし白祿
人と絵の話。いい意味で裏切られた作品。都で一番の絵描きの高川百録は、詐欺にあい一文無しになってしまった。そこで、完成させた絵の生き物は生命を持ってしまうので、あえて描かなかった片目を入れて飛び出してきた虎や竜を捕まえて、高値で売ろうと考える。しかし、その捕まえる役目は贋作の武士(ニセモノなのでペラッペラ)なので上手くいかない。はじめは凸凹コンビの珍道中みたいな感じなのだが、竜に目を描いてからはグッとシリアス方面にシフトしていく。特に贋作武士が雨に濡れて溶けかけながらも、なんとか百録のために医者を探そうとするところは不意の展開に感動してしまった。

・子がかわいいと竜が鳴く
人と竜の話。描き下ろしの一作で、コミックナタリーの特集ページ内で読むことが可能になっています。病床の王のために竜のウロコを探すシュン王子と、その道案内をすることになったヨウという女の話。ヨウは恨みをモチベーションにしているという、九井作品にしては珍しいキャラ。その正体を現し始める竹林~断崖のシーンは妙な緊張感があってよかった。この話の後日談というか、子竜とのその後みたいな話も読んでみたい。あとシュン王子も、そのクソ真面目なバカ正直さを曲げなかったのが良かった。

・犬谷家の人々
人と人の話。代々超能力を使える家系の犬谷家。双子のありさとゆりかが能力に目覚めた記念のパーティーを開くことになったが、その場に大学生探偵の銅田一耕助が現れて…。ミステリのフォーマットを逆手に取ったコメディテイストの強い一作。超能力を隠そうとして行動が不自然になってしまう犬谷家の面々と、なんでも殺人事件に結びつけてしまう探偵脳の銅田一君のズレたやり取りが面白かった。特に、父親の「雨で屋上から足をすべらせたのかー」のセリフの横に書き文字で「すべらせたのかー」とダメを押しているところ。



前作からの路線を進化させた『竜の小塔』や『わたしのかみさま』のほかにも『狼は嘘をつかない』『犬谷家の人々』のようなテクニカルな構成のものもしっかりと描き上げてしまうという、作者の力量の深さを感じさせられました。




テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2012/10/17(水) 12:00:37|
  2. 九井諒子
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竜の学校は山の上 の感想

竜の学校は山の上 九井諒子作品集竜の学校は山の上 九井諒子作品集
(2011/03/30)
九井 諒子

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『竜の学校は山の上』の感想です。

作者のホームページや同人誌などで発表されてきた短編9作を、一冊にまとめたものになっています。これが作者の初単行本ということになります。イーストプレス社より3月に発売されていました。
全体的に『勇者』『魔王』『竜』『ケンタウロス』といったファンタジー要素のあるものが作品のモチーフに使われながら、一般的な作品が話の都合上ふれるのを避けてきたり、無いものとして展開させているような部分をストーリーの主軸に据えて、そこに現実の世界でも起こるような問題を溶け込ませていることで、独特の世界観を作り出しています。

・帰郷
前半数作は、いわゆるRPGで『勇者が魔王を倒したあとの世界』を描いたもの。この『帰郷』は、魔王を倒した勇者が故郷の村に帰ってきた、という話。当然、村の人たちは盛大にもてなすのですが、勇者には『魔王を倒したことによって生まれた悩み』というものがあって…。という内容。勇者が幼馴染の男にだけ胸の内を語る時の表情と、それを受け止めきれなかった男のラストのモノローグが切ない。

・魔王
大雪の日に現れた吟遊詩人が語る『魔王誕生の秘密』。なるほど、確かに魔王やモンスターとかは、こういう風に生まれて来るのかもしれないと思った。わりとゲームとかは、その辺のことを省略していた気がする。『突如現れた~』みたいな感じで。この話の中では、魔王が攫ってきた姫に心惹かれていく流れが良かった。特に食事をする席が近づく2コマが。

・魔王城問題
勇者に倒された魔王が住んでいた城の再利用がテーマ。立地はいいものの周囲の大地が荒れ果てていたり毒の沼があったり、城の中にトラップが仕掛けられていたり『ラストダンジョンあるある』が盛りだくさん。勇者が自分たちのサポートに軍隊の力を貸してくれなかったことを根に持っていたりといったRPGネタと、移住の難しさや隣国との戦闘といった現実的な問題のミックス具合が絶妙だと思う。あと、1ページ目の勇者のイメージ図との実際の勇者のギャップが面白い。

・支配
コレは、ちょっと角度を変えた話。魔王が、いわゆる悪魔的な怪物ではなく○○だったら…?という箱庭モノ。勇者出撃からの手抜き(?)な絵柄から、ラストの人々の笑顔の落差がイイ。

・代紺山の嫁探し
この話は、一転して日本の昔話のような雰囲気。貧しい山の麓にある貧しい村が、山に神様に来てもらって福を招こうとする、という話。当たり前に神様がいて、それらが人間と当たり前に話をする世界観が面白かった。全体的な話の流れは、おみつの回想あたりで想像がつくのだが、そこからラストの切ない雰囲気での終わり方は想像ができなかった。他の話にも共通していることだけど、話の締めかたがキチッと落とすのではなくスーッとフェードアウトしていくような終わり方で、それが独特の読後感を生んでいると思う。

・現代神話
いわゆる普通の人間・猿人(ホモサピエンス)と馬人(ケンタウロス)という、2つの人種がいる世界。馬人は疲れにくく休みも少なくても大丈夫なので、猿人の就職を圧迫している。それを是正するために馬人の労働規制法が提出されそう。という微妙な状況を、猿人の夫みちおと馬人の妻(しーちゃん)、猿人の先輩社員ミキと馬人の後輩社員タナベの2組の視点を通して描いています。46Pのボリュームとしーちゃんがカバーのメインを飾っていることもあって、この本の中でも屈指の内容。猿人と馬人が共存していく難しさについて単純にストーリーが展開していくだけでなく、途中に4コマ形式のショートストーリーが挟まり、そこで日常風景が描かれる構成がとても面白い。電車には馬人専用車両があったり馬人専用のスリッパが売られていたりと、特殊な風俗をごく自然に作品の中に馴染ませているのがスゴイと思った。ただ、馬人は男女問わず下半身の馬部分に着る服がスカート状のものなのが、ちょっと気持ち悪かった。

・進学天使
アメリカへの留学に悩む少女と、幼馴染の男子の葛藤や心のすれ違いの話。と書けば普通に思えるかもしれないけど、変わっているのは少女の背中に翼が生えていたこと。翼が生えていることをクラスメイトが当然のことと受け止めていたり、一見優雅に思える空を飛ぶことの運動的な過酷さを説明したり、日常生活とファンタジー要素の融合具合は、もう作者のお手の物という感じ。実際『翼が生えている』という部分を『バイオリンの天才』とか『親が外国で働いている』というふうに置き換えてみると一昔前の少女漫画のようだが、そういう古臭さを感じさせないのは上手いと思う。少女が、クラスメイトに頼まれて上空からビデオ撮影をする流れがイイ。

・竜の学校は山の上
タイトル作だけあって、完成度の高い一作。日本で唯一竜について学べる『竜学部』のある大学が舞台。トビラで、いきなり「皆さんの就職先はありません」と宣言してしまったのが笑えた。強い、硬い、空を飛ぶ、火を噴く、というイメージのあるドラゴンを、食用にも観賞用にも不向きで税金を使って保護しなければならない竜、と定義づけたことによって逆に世界が広がった感じ。竜研究会の部長のカノハシ、獣医学部のスガノ、主人公の新入生アズマ、それぞれの竜への考え方接し方の違いが、現実の就職や働く意識の問題なんかとリンクして、作中の世界にグイグイ引き込まれる感じ。個人的には、アズマが竜のちょっとしたこと(指が5本あるとか、羽が退化したうろこのようなものとか)に楽しみを見つけていく流れと、カノハシ部長が飛竜のよし子に乗って空を飛ぶ前の助走の迫力が良かった。

・くず
他の話とはタイプが違う『実験』的な話。本当にどっかの大学がこんなことをやっているのかもしれないと思った。スウェーデンあたりの。

・金食い虫くん
おまけのあとがきマンガ。本当にお金を食べて暮らしている男の話。実際そんな人間はいないのに、1万円を食べた感想については、なぜか共感できてしてしまう。


フェローズに掲載された作品が面白かったので買ってみたらアタリでした。しかし、最近は女性作家のマンガばかり買っている気がする。






テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2011/12/08(木) 08:36:53|
  2. 九井諒子
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