晴耕雨マンガ

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ひきだしにテラリウム の感想


ひきだしにテラリウムひきだしにテラリウム
(2013/03/16)
九井諒子

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九井諒子の最新刊『ひきだしにテラリウム』が発売されました。
アマゾン内のWEB文芸誌『マトグロッソ』に連載されていた30本と、個人誌や雑誌に掲載されていた3本、描き下ろしの1本を加えた全33本のショートストーリ-が収められています。どの話も3~10P程度ながら、SFだったりファンタジーだったり寓話的だったりバラエティ豊かで内容の濃いエピソードばかりです。
感想を書いていきますがネタバレありのなで、ご注意を。




・表紙
各話の登場人物たちが、大集合しています。学生や兵隊、宇宙人や未来人、ネコやロボットが混在しているのに、不思議とひとつの世界におさまっています。どのキャラがどこにいるのか、気づいたものを書いていきたいと思います。

・すれ違わない
まず少女漫画風の絵柄に驚くし、続けて鼻に変な機会を突っ込んで相手の考えを理解するという展開に面食らってしまう。とても便利な機械のように描かれているけど、アレを使わない=やましいことがある。っていうことで、余計なトラブルも増えそう。
→ 編集者の山田が裏表紙ロボットの足元に。

・湖底の春
ヨーロッパのおとぎ話に本当にありそうな内容。語り口やラストの教訓もいかにもという感じ。絵柄は全体を通して、いちばん繊細。
→ 表紙折り返し部分で湖をのぞいている。表紙側折り返しで春の精がヒッチハイクしている。(初音ミクオさん情報)

・恋人カタログ
作中で登場キャラが言っているように、ドラえもんの『ガールフレンドカタログ』がモチーフに。社長令嬢だが地味で面白味のない女性と交際中の男が、友人の科学者の協力を得て未来の自分から“恋人候補”のアルバムを送ってもらう。彼女がイメチェンしてからの4ページで、しっかりラブストーリーしているのが素晴らしい。
→表紙左上で車に乗っている。

・恋
気づけば目で追っていて、寝ても覚めても頭から離れないのに『恋』ではない理由とは? 2ページということもあるかもしれないが、星新一作品のようだと思った。
→エマとアンドリューが表紙のタイトルに隠れる部分を歩いていて、博士が裏表紙で様子をうかがっている。

・かわいそうな動物園
なぜトラやライオンを狭い檻で飼っているのか? 生まれたばかりのアルビノの象を殺さなければならないのか? その疑問がラストの一言で一気に解決するのが爽快感がある。
→象の親子が裏表紙右下に。飼育員たちはバスの上でハトを捕まえようとしている。

・パラドックス殺人事件
役にのめりこみすぎた俳優が、その作品世界の神=脚本家を殺してしまう。しかし、神が死ぬと世界が存在しないことになり…という哲学的な矛盾を抱えた事件。それをたった一言で否定し、いっしょにいる男が「あちゃぁ」みたいな顔をしているのが面白かった。
→ 表紙右下にテレビを見ていた2人と田中が。

・未来面接
中学生が、ある会社の面接を受ける。中3ではなく中2が面接を受けていたり、2ページなのに伏線が効いていると思う。
→ 小山君は裏表紙でロボットを操縦。面接官は、変わった髪の色の3人組の面接をしている。

・龍の逆鱗
九井作品おなじみの龍が登場。その解体方法や料理の仕方、味の感想に妙なリアリティがある。
→ 表紙右上で龍料理を食べている。

・TARABAGANI
個人誌で発表されていた作品。タラバガニはカニじゃなくてヤドカリの仲間。だったら、この場合は?という話。たぶん、メガネの彼は間違っていない。
→ 表紙右上でタラバガニを食べていて、佐々木君は表紙下部分で机に向かっている。

・遺恨を残す
他星からの宗教を厳しく制限している星と、そこから持ち帰ってしまった繁殖力の強い植物の種を通じて、消えつつある神さまに思いをよせる。スコシフシギ系の絵柄だったので教訓的なオチに意表をつかれた。
→ 主任と部下が裏表紙のロボットの足のあいだに。地球の職員が裏表紙の左下。ペロペロ星人が表紙側の折り返しに。ホッペケ教の手提げ袋がいたる所に。

・代理裁判
職場の子に無視された!? 彼氏の最近の行動がアヤシイ!? ということを、頭の中で自分が裁判官・検事・弁護士の1人3役になって裁判をする。1件目はともかく2件目は有罪に十分な証拠がそろっているのに、なぁなぁで無罪にしてしまうのが良かった。
→ 表紙側の折り返しで裁判をしている。近くの会社員3人組も?(初音ミクオさん情報)

・ノベルダイブ
帯に内容が引用されたエピソード。眠る前に読んでいた作品の世界観と現実の問題がゴチャゴチャになってしまう。夢の中ではいろいろと問題が片付いたが、現実では皿を洗っただけという…。
→ 表紙折り返しで姫の格好でコピーを取っている。近くには、馬とボサボサの歯ブラシ。そばの会社員3人組も?(初音ミクオさん情報)

・記号を食べる
文字通り、○ △ □ を料理して食べるだけの内容。個人的には、もちっとしている □ が美味しそうだと思った。
→ 表紙右上のテーブルの上に記号が乗っている。

・えぐちみ代このスットコ訪問記 トーワ国編
作者の別作品『狼は嘘をつかない』と同じように、エッセイ漫画と現実がミックスされたスタイル。トーワ国に取材に行った漫画家と現地青年の価値観の違いを描いている。現地青年視点のえぐちみ代こ地味カワイさが良かった。
→ 裏表紙のバスの中にえぐちみ代こ(漫画版)が。

・旅行に行きたい
旅行の行き先を決めようとダーツを投げても、なぜか同じ場所に刺さってしまう。2ページ目が諸星大二郎っぽいと思った。
→ 裏表紙のバス。

・ユイカ!ユイユイカ!
外界から攻めてくる魔物と戦う兵士。でも、実はそれは…という話。オマケページの『やめろ』というツッコミが良かった。
→ 表紙左上に兵士たち。裏表紙の木の上にイェーカー。

・ピグマリオンに片思い
変わった性癖を持った男とばかりつき合ってしまう女性の悩みとは? オマケページにあるように『性癖 種類』で検索したら、頭がクラクラした。あと相談を受けている女の方が、九井作品には珍しいツリ目なのが好みです。
→ 相談する女性が、ロボットの足の影に。

・すごいお金持ち
リゾート地から見える島に豪邸を築き、そこで1人で暮らしている“すごいお金持ち”。そのエピソードを聞きながら的確なツッコミをいれていく観光客が面白かった。でも、それもオチへの伏線になっているとは。
→ お金持ちが表紙右側に。表紙側折り返しの地図のマーク。同じくペロペロ星人の下の切れ目は、すごいお金持ちの布団。観光客は裏表紙でバスに乗っている。裏表紙側の折り返しに、夢に合わせるオーケストラ。(初音ミクオさん情報)

・語り草
植物にも心があるので、大事に世話をすれば伝わるはず。だったら、不要な部分を剪定されたり接ぎ木されたときの植物の気持ちは? 2人の内のおっとりしている方が、意外とサバサバした解決をしているのが面白かった。あと、植物に詳しくない方の顔に終盤ドロが付きっぱなしなのも。
→ 裏表紙右上に。

・春陽
『人間』というペットを飼うことになり、その成長の様子を描いていく。考えてみれば自分の親の若いころは知らないし、自分の子供の老後を見ることはできない。ひとりの人間の一生を見守ることっていうのは貴重なことなんだと思った。
→ 裏表紙左側で人間の女の子とクマのぬいぐるみが、機械に乗っている。(tomtanakaさん情報)

・秋月
すべてを機械(アイスのコーンのような形)に管理されている女性。そこの生活に満足している彼女は、外部からの助けの手も簡単に断ってしまう。いったい何が幸せなので、何が自由なのか? 気になるのは、主人公の女性は作中では美女なのに、オマケページや表紙では子どもに描かれているところ。
→ 機械が裏表紙左側に。

・かわいくなりたい
4ページまるまる使って、ネコのメイクの様子を紹介している。毛先をカットして小顔にしたり、鼻の境界線を目立ちにくくしたりといった“ありえないリアリティ”が素晴らしい。個人的には、それまで見えなかったヒゲにラメをつけて目立たせるところが好き。
→ 表紙中央部分に。彼氏ネコはタイトルに隠れる部分でバスを待っている。

・パーフェクト・コミュニケーション
音ゲーが得意な主人公が、楽しく会話するという難易度の高い『コミュニケーションゲーム』に苦戦する。上手く話ができずに矢印が下に溜まってしまっているコマが良かった。あと主人公が読んでいる本は『水滸伝』か。
→ 主人公が裏表紙のロボットの足元に。

・ショートショートの主人公
人はみな、何かの主人公。ということで『ショートショートの主人公』に生まれた娘が、意外なオチで死んでしまわないように、家族があれこれ考える。たぶんラストの一言が、作者の本音なんだろうな。
→ 兄の退魔師が表紙左下にいて、主人公が表紙中央部分を歩いる。その先にある死体跡は、ショートショートのオチ?(初音ミクオさん情報)

・遠き理想郷
小学生向けに『いじめ』をテーマに紙芝居を作ることになったが、なぜうさぎ人がねずみ人をいじめることになったのか?ということを考えはじめたことから、壮大なストーリーが紡がれていく。無駄にスケール感が大きくて、個人的にはベストエピソード。
→ 表紙下側にねずみ人とうさぎ人。もぐら人は、バスの前に穴を掘っている。

・神のみぞ知る
村で流行った奇病をしずめるために、社に住む猫の神様に村人の手が伸びる。最初は神殺しの話かと思ったが、まさかの展開に。毒も、ソッチ側のなのね。神さまが生まれ変わった168Pが素晴らしい。
→ 表紙側の折り返しに神様と村人。

・すごい飯
知育菓子のような肉や、すっぱいソースをかけた金魚などを食べたことを美味しそうに語る男。最高の調味料は、想像力ということか。
→ 表紙右上に男が食べたもの(のイメージ)が。

・生き残るため
前半4ページは生物の進化の過程を描いていたのに、後半3ページで意外な展開に。しかもラストにはエンドロールって、全体が映画だったのか何だったのか、よく分からない。
→ ゾンビが裏表紙でロボットに踏まれている。寄生生物は表紙折り返しでポチに追われている。

・スペースお尺度
様々な悩みはあるが宇宙規模で考えると些細なこと。と思っていたが、実際の問題との距離はずっと近かったという話。『恋人カタログ』とならぶ恋愛ストーリー。あと、遠くに転がっていく太陽系の模型に、ずっと説明がついているのが面白かった。
→ 主人公が裏表紙側の折り返し部分を走っていて、裏表紙右上に『こども科学博物館』のマスコット。

・ひきだし
描き下ろし。廃屋の中にある、精巧な箱庭を収めた無数の引き出し。男は、そのひとつを盗み出してしまうが…。いちおう表題作ということになると思うが、それにしては3ページしかないし、ちょっと物足りなかった。
→ カバー全体がひきだしの中のイメージ?

・こんな山奥に
女性2人組が山の中で見つけた食堂に入る。しかし、そこの客は油揚げにこだわったり出雲に顔が効くことを自慢したりと、ちょっと変わっていた。ラストの一言でキレイにオチていて、気持ちがイイ。個人的にお気に入り。
→ 表紙右上できつねうどんを食べている。店員もそう。表紙側折り返し部分に婚約したカップル。(聖ズベリゴさん情報)

・夢のある話
サンタクロース派遣会社の日本支社で働く、頑固者のカナダ人のダニエルさん。仕事の才能と愛情が比例しないというのが、リアルな仕事でも言えることというのが、微妙に切ない。あと、トナカイのセリフが面白かった。
→ 表紙側の折り返しにサンタが。近くの会社員3人組も?(初音ミクオさん情報)

・未来人
突如部屋に現れた未来人。その行動がどこか不審で…。この話だけでは意味が分からず『すれ違わない』とセットで、はじめて成立するというのがスゴイ。
→ 編集者の山田が裏表紙ロボットの足元に。


表紙のキャラ大集合の中で、ダイイングメッセージ付きの死体跡が、どの話の登場人物なのか分からない。




テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2013/03/18(月) 15:06:09|
  2. 九井諒子
  3. | コメント:10

竜のかわいい七つの子 の感想

九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)
(2012/10/15)
九井諒子

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九井諒子、約1年半ぶりの単行本『竜のかわいい七つの子』が発売されています。コミックナタリーでカバーイラストの製作過程などが公開されていますので、よろしければそちらもご覧いただけると、より深く作品世界を知ることができるかと思います。
コミックナタリーの特集

・竜の小塔
人と竜の話。戦争中の山国と海国を隔てる関所の塔の上に竜(見た目はグリフォン)が巣を作ってしまったため、休戦状態&物資不足に。山国には塩がなく、海国では野菜が育たない。竜の巣の下を唯一通過することができる海国の戦士サナンと、山国の少女ユルカを中心に話が展開していきます。戦争中の暗いムードのエピソードを丁寧に積み重ねているから、竜の巣立ちのシーンの盛り上がりにつながっていると思う。フェローズではじめて読んだときは、衝撃を受けました。

・人魚禁猟区
人と人魚の話。『人魚に人権はあるのか!?』ということが社会問題になっている日本の田舎町が舞台。主人公の準は、通学路の脇に倒れていた人魚を助けたことから、友人の浜君とのあいだに気まずい空気が流れることに。なぜか山の上の学校に行きたがる人魚を助けようとする準と、親が人魚を車でひき殺してしまったことからいわれのない中傷を受ける浜君。言葉が通じても考えの違いがあるが、言葉の通じない人魚とでも分かり合えることがある。というところからの人魚の行動は、かなりショッキングだった。ただ、それでも準が前向きな答えを見つけてくれたのが良かった。

・わたしのかみさま
人と神様の話。カバーでメインをつとめている、つくも神が見える女の子の雪枝が主人公。マンション工事のために居場所がなくなってしまった野山の神(魚の姿をしている)を水槽で守ることに。特に、上手くいかない中学受験に雪枝がナイーブになっている描写が素晴らしかった。「頑張ってもだめだったら ぜんぶ無駄になっちゃうの?」「もし全部だめだったとしても 私はちゃんと私になれる?」のあたり。あと、本編後のオマケイラストで水槽を洗っている雪枝が、なんかカワイイ。

・狼は嘘をつかない
人と人の話。まず前半に、WWS(狼男症候群)という病気の子供を持った母親の育児エッセイマンガ(梅谷ゆかりの『我が家のワン!ぱく息子』)があって、後半で、その成長した息子の苦悩を描くという構成が良かった。狼男という部分に気を取られがちだけど、それを除いた親子関係の問題は現実にもよくあることだし『思っていることを素直に口にしてみる』っていう解決方法も、実際に使えるもの。こういう、日常の問題とファンタジーの融合具合が、やっぱり作者の持ち味だなと再認識させられる。

・金なし白祿
人と絵の話。いい意味で裏切られた作品。都で一番の絵描きの高川百録は、詐欺にあい一文無しになってしまった。そこで、完成させた絵の生き物は生命を持ってしまうので、あえて描かなかった片目を入れて飛び出してきた虎や竜を捕まえて、高値で売ろうと考える。しかし、その捕まえる役目は贋作の武士(ニセモノなのでペラッペラ)なので上手くいかない。はじめは凸凹コンビの珍道中みたいな感じなのだが、竜に目を描いてからはグッとシリアス方面にシフトしていく。特に贋作武士が雨に濡れて溶けかけながらも、なんとか百録のために医者を探そうとするところは不意の展開に感動してしまった。

・子がかわいいと竜が鳴く
人と竜の話。描き下ろしの一作で、コミックナタリーの特集ページ内で読むことが可能になっています。病床の王のために竜のウロコを探すシュン王子と、その道案内をすることになったヨウという女の話。ヨウは恨みをモチベーションにしているという、九井作品にしては珍しいキャラ。その正体を現し始める竹林~断崖のシーンは妙な緊張感があってよかった。この話の後日談というか、子竜とのその後みたいな話も読んでみたい。あとシュン王子も、そのクソ真面目なバカ正直さを曲げなかったのが良かった。

・犬谷家の人々
人と人の話。代々超能力を使える家系の犬谷家。双子のありさとゆりかが能力に目覚めた記念のパーティーを開くことになったが、その場に大学生探偵の銅田一耕助が現れて…。ミステリのフォーマットを逆手に取ったコメディテイストの強い一作。超能力を隠そうとして行動が不自然になってしまう犬谷家の面々と、なんでも殺人事件に結びつけてしまう探偵脳の銅田一君のズレたやり取りが面白かった。特に、父親の「雨で屋上から足をすべらせたのかー」のセリフの横に書き文字で「すべらせたのかー」とダメを押しているところ。



前作からの路線を進化させた『竜の小塔』や『わたしのかみさま』のほかにも『狼は嘘をつかない』『犬谷家の人々』のようなテクニカルな構成のものもしっかりと描き上げてしまうという、作者の力量の深さを感じさせられました。




テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2012/10/17(水) 12:00:37|
  2. 九井諒子
  3. | コメント:2

竜の学校は山の上 の感想

竜の学校は山の上 九井諒子作品集竜の学校は山の上 九井諒子作品集
(2011/03/30)
九井 諒子

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『竜の学校は山の上』の感想です。

作者のホームページや同人誌などで発表されてきた短編9作を、一冊にまとめたものになっています。これが作者の初単行本ということになります。イーストプレス社より3月に発売されていました。
全体的に『勇者』『魔王』『竜』『ケンタウロス』といったファンタジー要素のあるものが作品のモチーフに使われながら、一般的な作品が話の都合上ふれるのを避けてきたり、無いものとして展開させているような部分をストーリーの主軸に据えて、そこに現実の世界でも起こるような問題を溶け込ませていることで、独特の世界観を作り出しています。

・帰郷
前半数作は、いわゆるRPGで『勇者が魔王を倒したあとの世界』を描いたもの。この『帰郷』は、魔王を倒した勇者が故郷の村に帰ってきた、という話。当然、村の人たちは盛大にもてなすのですが、勇者には『魔王を倒したことによって生まれた悩み』というものがあって…。という内容。勇者が幼馴染の男にだけ胸の内を語る時の表情と、それを受け止めきれなかった男のラストのモノローグが切ない。

・魔王
大雪の日に現れた吟遊詩人が語る『魔王誕生の秘密』。なるほど、確かに魔王やモンスターとかは、こういう風に生まれて来るのかもしれないと思った。わりとゲームとかは、その辺のことを省略していた気がする。『突如現れた~』みたいな感じで。この話の中では、魔王が攫ってきた姫に心惹かれていく流れが良かった。特に食事をする席が近づく2コマが。

・魔王城問題
勇者に倒された魔王が住んでいた城の再利用がテーマ。立地はいいものの周囲の大地が荒れ果てていたり毒の沼があったり、城の中にトラップが仕掛けられていたり『ラストダンジョンあるある』が盛りだくさん。勇者が自分たちのサポートに軍隊の力を貸してくれなかったことを根に持っていたりといったRPGネタと、移住の難しさや隣国との戦闘といった現実的な問題のミックス具合が絶妙だと思う。あと、1ページ目の勇者のイメージ図との実際の勇者のギャップが面白い。

・支配
コレは、ちょっと角度を変えた話。魔王が、いわゆる悪魔的な怪物ではなく○○だったら…?という箱庭モノ。勇者出撃からの手抜き(?)な絵柄から、ラストの人々の笑顔の落差がイイ。

・代紺山の嫁探し
この話は、一転して日本の昔話のような雰囲気。貧しい山の麓にある貧しい村が、山に神様に来てもらって福を招こうとする、という話。当たり前に神様がいて、それらが人間と当たり前に話をする世界観が面白かった。全体的な話の流れは、おみつの回想あたりで想像がつくのだが、そこからラストの切ない雰囲気での終わり方は想像ができなかった。他の話にも共通していることだけど、話の締めかたがキチッと落とすのではなくスーッとフェードアウトしていくような終わり方で、それが独特の読後感を生んでいると思う。

・現代神話
いわゆる普通の人間・猿人(ホモサピエンス)と馬人(ケンタウロス)という、2つの人種がいる世界。馬人は疲れにくく休みも少なくても大丈夫なので、猿人の就職を圧迫している。それを是正するために馬人の労働規制法が提出されそう。という微妙な状況を、猿人の夫みちおと馬人の妻(しーちゃん)、猿人の先輩社員ミキと馬人の後輩社員タナベの2組の視点を通して描いています。46Pのボリュームとしーちゃんがカバーのメインを飾っていることもあって、この本の中でも屈指の内容。猿人と馬人が共存していく難しさについて単純にストーリーが展開していくだけでなく、途中に4コマ形式のショートストーリーが挟まり、そこで日常風景が描かれる構成がとても面白い。電車には馬人専用車両があったり馬人専用のスリッパが売られていたりと、特殊な風俗をごく自然に作品の中に馴染ませているのがスゴイと思った。ただ、馬人は男女問わず下半身の馬部分に着る服がスカート状のものなのが、ちょっと気持ち悪かった。

・進学天使
アメリカへの留学に悩む少女と、幼馴染の男子の葛藤や心のすれ違いの話。と書けば普通に思えるかもしれないけど、変わっているのは少女の背中に翼が生えていたこと。翼が生えていることをクラスメイトが当然のことと受け止めていたり、一見優雅に思える空を飛ぶことの運動的な過酷さを説明したり、日常生活とファンタジー要素の融合具合は、もう作者のお手の物という感じ。実際『翼が生えている』という部分を『バイオリンの天才』とか『親が外国で働いている』というふうに置き換えてみると一昔前の少女漫画のようだが、そういう古臭さを感じさせないのは上手いと思う。少女が、クラスメイトに頼まれて上空からビデオ撮影をする流れがイイ。

・竜の学校は山の上
タイトル作だけあって、完成度の高い一作。日本で唯一竜について学べる『竜学部』のある大学が舞台。トビラで、いきなり「皆さんの就職先はありません」と宣言してしまったのが笑えた。強い、硬い、空を飛ぶ、火を噴く、というイメージのあるドラゴンを、食用にも観賞用にも不向きで税金を使って保護しなければならない竜、と定義づけたことによって逆に世界が広がった感じ。竜研究会の部長のカノハシ、獣医学部のスガノ、主人公の新入生アズマ、それぞれの竜への考え方接し方の違いが、現実の就職や働く意識の問題なんかとリンクして、作中の世界にグイグイ引き込まれる感じ。個人的には、アズマが竜のちょっとしたこと(指が5本あるとか、羽が退化したうろこのようなものとか)に楽しみを見つけていく流れと、カノハシ部長が飛竜のよし子に乗って空を飛ぶ前の助走の迫力が良かった。

・くず
他の話とはタイプが違う『実験』的な話。本当にどっかの大学がこんなことをやっているのかもしれないと思った。スウェーデンあたりの。

・金食い虫くん
おまけのあとがきマンガ。本当にお金を食べて暮らしている男の話。実際そんな人間はいないのに、1万円を食べた感想については、なぜか共感できてしてしまう。


フェローズに掲載された作品が面白かったので買ってみたらアタリでした。しかし、最近は女性作家のマンガばかり買っている気がする。






テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2011/12/08(木) 08:36:53|
  2. 九井諒子
  3. | コメント:0
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