

完結となる、ブランクスペース第3巻の感想です。
・#11 見えない『透明な犬』と遭遇してしまったショーコとスイ。このピンチをテツヤが救う。なんとなくテツヤは“彼氏役”のために生み出された存在で、スイのことを気遣ったり喜ぶことを言うだけしかできないと思っていただけに、透明な犬に対し真面目な問いかけをしていることに意表を突かれてしまった。ここまでしっかりとした知能を持った人間だったのか。いっぽう、高熱を出したスイを病院に送ったあと、ショーコは現場に戻る。「目の前に無数の透明人間の死体が転がっているかも」という想像のすぐ後に「横でカサが浮いていたらエスパーと思われる」と言うギャップが、ショーコの魅力だと思う。
・#12 撃つべきもの『透明な銃』を作ったスイは、テツヤ(鉄パイプ装備)といっしょに街へ。そこで、同じように対透明な犬用の装備で身を固めた(醤油に対する圧倒的な信頼感!)ショーコを見つける。テツヤをショーコのほうに行かせたあと、草むらを動く陰にむけて銃口を向けるが……。ここで、スイの中でなにかがプツリと切れてしまったか。すべてを終わりにしようと考える。跡をつけてきたテツヤに鋭くショーコが気づくが、これは後々の展開を考えるとショーコにもそういう才能があったってことでいいのかな? それから、たまたま会った友人が去りぎわに言った「がんばれ21世紀枠ー!」が面白すぎる。
・#13 飢えたるもの#5で斧を落とした森で、覚悟を決め地面に横たわるスイ。それを受けて透明な犬は、自らの役割をハッキリと認識する。と同時に時田たちや今給黎さんなど、空白に関係している人物たちが異変を感じる流れが良い。バラバラだった物語の歯車がガチッとハマり、ここからクライマックスに突入したというようなムードで、がぜん盛り上がってくる。巨大化し2足歩行になった透明な犬に追われたスイたちは、公園の遊具の下に身を隠す。なんとかショーコだけは逃がすが、状況は厳しいまま……。
・#14 空白たちイチコや今給黎さんなど、異変を感じた人たちが動き出す。特に、自分を生み出した中道ゴロウと別れるイチコの見開きが印象的。右ページの黒塗りの部分がゴロウが座っているイスで、左ページの文字のない部分が走り出したイチコといういことか。そして、ショーコは曲がり角でイチコとぶつかってしまう。ショーコの「ホァ⁉」というリアクションも面白いが、イチコの状況判断の早さもなかなかのもの。そして、スイは自らが犠牲となってでも、透明な犬を倒そうと考えるのだが……。
・#15 あらゆる曲がり角でスイのピンチを、メカ・キリンに乗った今給黎さんが救う。そして、援軍は他にも……。魔法少女や宇宙飛行士など、空白の存在がこんなにもいたというのも驚きだが、ショーコは彼らと曲がり角のたびにぶつかっていたのか? しかし、透明な犬の強さは圧倒的。今給黎さんたちが夢の世界にフッ飛ばされてしまう。ここでショーコが出会ったのが、#2のときにちょっとだけ登場した星ロボットというのも上手い演出(その前の白い犬とかも)。さらに、空白たちと合体する。裸のオッサンが頭部を担当しているっぽいけど、パワーアップになっているのか?
・#16 犬も星も合体したメカ・キリン星ロボEXは、透明な犬をワンパンKO! 街に被害を出さないように夢の世界に連れていくことになる。と同時に、空白の存在たちもこっちに戻ってこれなくなるわけで……。やはり、スイとテツヤの別れのシーンが切なすぎる。犬に名前をつけてあげてほしいというのも、2人の子供を託すみたいで何だか泣けてくる。それから、魔法少女によって空白の存在が何なのかということが語られる。この場所に来なかった空白も何体かいたのかもしれない。
・#17 空白の街石川啄木など、様々な文豪の一説を引用しながらのエピローグ。スイがショーコと初めて会ったときに借りたカサをまた持っているというのが良い。前向きな夢も語っているし明言はされていないが、この感じだとイジメの問題もクリアされていそう。そして、なんといってもエンディングの7ページが素晴らしすぎる。見開きで『空白の街』が広がっていく演出に鳥肌が立つ。
全3巻でスッキリとまとまった名作。熊倉先生の次回作にも期待したいです。
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テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック
- 2022/09/30(金) 18:17:29|
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ブランクスペース第2巻の感想です。2人の間にある手は……。
・地図舞台となる空代市の地図が収録。スイの家、学校からけっこう離れたところにあるんだな。
・#6 比喩・変身・銃『透明な彼氏』作りが難航するスイ。しかし、坂口安吾の『堕落論』の一説を読んだこと、そして体育の授業で走り高跳びの様子を見たときに、なにか歯車がかみ合った様子。彼氏にテツヤと名前をつけたり自分を好きになったもらおうと髪を切ったりといった、超能力に頼らない努力をしていることに素直に感心する。それとは打って変わって、『透明な彼氏』が殺人鬼だった場合に備えて醤油とスパナをリュックに忍ばせたり(組み合わせが独特すぎるし、どうしてリュックから落とすことができるのか!?)、授業で当てられてパスを使おうとしたりするショーコの能天気さが面白すぎる。
・#7 犬が吠える走り高跳びに失敗しタイミングで誕生した、透明な彼氏・テツヤ。戸惑いから透明な風船が誕生したのは分かるんだけど、それをテツヤが割ったときにスイが泣いたのは、どうしてなんだろう? 作るのに苦労した彼氏がやっと完成して安堵したからだろうか、それとも……。そして、この話でもショーコは、コメディ役としての実力をいかんなく発揮している。スイとテツヤが一緒にいるところを目撃(テツヤは見えないけど)した驚きで何時間も固まってしまうとは。そして街では、もうひとつ別の動きが。『透明な彼氏』を作る前、試していた『透明な犬』も同時に誕生していた様子。しかもその犬は『飢えた凶暴な犬』……。
・#8 わが空白スイが欲しかった小説『わが空白』を買ったのは、時田という男だった。彼は喫茶店員の中道が、作者の中道ゴロウの親戚だということを知る。『わが空白』は、孤独な小説家が空想した実在しない空白の恋人・イチコが実体化して……という内容だった。2人は本と同じように、イチコの分もコーヒーを頼むのだが、会計のときに異変が……。これは『わが空白』がほぼノンフィクションの出来事を記したもので、空代市には何年も前から透明な女性が存在していたということなのか? あと、中道ゴロウとスイの間にどんな関係があるのかも気になるところ。遠い親戚だったりするんだろうか?
・#9 遺失物粉砕所古本屋で店番をしていた鈴白くん。『遺失物粉砕所』という読み切り漫画を気に入ったことから、居眠りするとその作中世界にトリップするようになってしまう。そこで作者の今給黎モモさんと語らうことを癒しとしていたが、彼女がバスの事故に遭ってしまい……。砂漠で上半身が炎に包まれた少女と、キリンの滑り台の前で踊るという見開きは、この巻のハイライトといっていいかも。『わが空白』は、彼女が引っ越しの際に誤って売ってしまったらしい。それまで空代市に住んでいたのか? 1冊しか刷られていないっぽい『わが空白』をどうやって手に入れたのか? 鈴白もショーコ&スイとどう絡んでくるのか?
・#10 鳥終業式の日に告白したものの、フラれてしまったショーコ。スイとも疎遠になりつつあり、半分ヤケになって川に入り、カラスからオモチャのアクセサリーを回収しようとする。少し前までスイが孤独で問題を抱えていて……という展開だったけど、テツヤが生まれたことで2人の立場が入れ替わってしまったみたい。そして2人は『透明な犬』と遭遇してしまう。これまではただゴミを荒らすだけだったが、直前には学校で飼われているニワトリを襲っている。テツヤも近くにいない状態でピンチを切り抜けることはできるのか?
テツヤをはじめ、時田、中道など、一気に登場人物が増えて世界が広がった感じ。
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- 2021/09/18(土) 12:28:32|
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『ブランクスペース』の感想です。
・表紙まず、表紙のデザインが素晴らしいと思う。タイトル『ブランクスペース(空白)』の通り、余白をたっぷり使ったデザイン。今後、この白い部分が増えていくのか減っていくのか? 総トビラや目次ページも、文字情報が最小限に抑えられているあたりも良い。
・#1 緑茶も紅茶も狛江ショーコは、意を決した告白も未遂で失敗(そんな切り出し方じゃ無理だろ)、テストの出来も散々で帰り道では雨に降られてしまう。ずぶ濡れのまま空き地をショートカットしようとしたところで、クラスメイトの片桐スイが『透明の傘』をさしているところを目撃する。『透明の物』を作り出せるという超能力を持つスイとショーコが急速に仲を深めていく様子が、とても良い。17ページの最初の一言を切り出すまでの戸惑いとか、スイが帰ったあとにショーコがドーナツを買いに走るところとか。それから、運がないことを嘆いたショーコが「星が降って学校がペシャンコになれば」と考えたことも、伏線になっているのか。
・#2 風船前話では普通に話していたが、翌日の学校でスイは超能力のことを隠し、ショーコとも距離を置くようになってしまう。そんな状況での体育の授業でリレーが行われるが、スイの手にはストレスが溜まると自然発生してしまう『透明の風船』が。そのへんに捨てるわけにもいかず、片手に風船を持ったままバトンを受け取るのも難しく……というピンチを、ショーコが助ける方法がカッコよすぎた。ショーコ、頭は悪いけど他人を助ける心根の真っ直ぐさは持っている。風船の破片を見送るラストといい、この話まではスコシフシギ系のゆるふわ日常友情ストーリー的な話が展開されると思っていたんだけど……。
・#3 夏そして春ショーコとスイは『透明のトースター』を作ったりして夏休みを過ごす。空中に浮かんだパンが焼かれていく様子が面白すぎる。そして、74~75ページのベンチでお弁当を食べるシーンの空気感が個人的には大好き。後の展開を考えると、他愛もないことを話しあっていたときが2人にとって一番幸せな時間だったのかも。そこから76ページのスイの「その公式 まだうちのクラス習っていない」というセリフで、進級するほど時間が経過しているという演出に意表を突かれる。新しいクラスでイジメのターゲットになっていたスイは『透明のハサミ』で自傷行為をしたり『透明のフライパン』で鬱憤を晴らしたりする。このあたりから、不穏な空気が充満していく。
・#4 多足類イジメはエスカレートし、欲しいと思っていた古本も他人に先に買われてしまう。ここで、ついにスイのガマンも限界に。全校集会中の体育館のガラス窓を『透明の銃』で撃ち抜いてしまう。担任教師の対応が杜撰なのはともかく、イジメている生徒が直接描かれないのが、なんかモヤモヤする。サブタイトルの『多足類』は、学校で流行っているキャラクターの『ムカデベア』(上半身がクマ、下半身がムカデ)のことなんだろうけど、スイがクラスで嫌われている = 害虫扱いみたいな意味もあるのかな。あと、スイが運命を感じた古本の『わが運命』と、それを買った男というのも、今後に重要な役割がありそう。
・#5 文学三島由紀夫の『金閣寺』にインスパイアされ、巨大な斧を学校に落とすことを思いついたスイ。本をよく読むっていうのはキャラ付けの一環で簡単に扱われがちだけど、ここは上手く読書家というのを生かした印象。前話から異変に気づいたショーコは、なんとか斧の落下を止めようと代わりに『透明の彼氏』を作ることを提案する。1巻最後に来る話で、第1話冒頭につながるような構成は上手い。直前に犬を作ろうとして失敗しているので、これで時間が稼げるとショーコは考えるが……。ベストなのはいじめを止めることなんだけど、ショーコひとりで何かできるわけでもないしなぁ……。
第1話のたとえ話で出てきたドーナツの穴や、買いたかった古本のあった場所など、作中ではいくつもの『空白』が描かれている。ショーコは、スイのブランクスペースを埋めることができるのか?
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- 2021/01/29(金) 17:54:29|
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