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晴耕雨マンガ

天国大魔境の小ネタ募集中/6月は、天国大魔境、ヴィンランド・サガ。

外天楼 の感想

外天楼 (KCデラックス)外天楼 (KCデラックス)
(2011/10/21)
石黒 正数

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石黒正数の最新作『外天楼』がはつばいされました。『そとてんさくら』ではなく『げてんろう』と読みます。年3回発行のミステリ文芸誌・メフィストに掲載されていたもので、08年から今年まで足かけ4年に渡る連載が1冊にまとまったものです。

・カバーと帯
本編の感想の前に、単行本の装丁の話を。カバーがザラザラした独特の手触りで、とても気持ちいいです。帯には『魔法少女まどか☆マギカ』『化物語』『さよなら絶望先生』の新房昭之監督からコメントが寄せられています。なにか、代表作が1つ抜けている気がしないでもないですが、あまり深く考えるのはやめておきます。

ここから本編の感想です。ネタバレ、大アリです。




・第1話 リサイクル
扱われるのは『日常の謎』。舞台は、近未来。有害なサイトを規制する法律のせいでエロいモノを見るのに苦労する中学生3人組が、拾ったエロ本の元の持ち主を推理します。オチの『エロ・カースト』とか「いつもの石黒短編のノリと思うほど、作品のエンディングとのギャップに驚かされます。一度読み終わってから読み直すと、この時点から伏線がタップリ仕込まれていることに気づかされます。08年に描いたネタを今年になって回収するまで、作者はどんな気持ちなんだろう? 「しめしめ」とほくそ笑んでいるのだろうか。何らかの事情で作品が発表できなくなる恐怖とかはないんだろうか?

・第2話 宇宙刑事vsディテクト
こういうのは『回想トリック』とでもいうんだろうか。悪の組織のミルダ参謀と、正義を守る宇宙刑事ズバンが戦っている現場で一般人の死体が発見され、その殺人犯を宇宙探偵ディテクトが暴くというミステリの体裁を借りたコメディという感じです(途中までは)。「11人いる!」ネタとかは、やっぱり笑ってしまう。また、第1話から10年経過していることが語られるんですけど、それも『石黒作品は、時系列がバラバラ』という先入観をからの思い込みを助けるモノになっていると思います。

・第3話 罪悪
いわゆる『叙述トリック』モノ。この話の主人公の女の子をどういう存在と捕らえるかで、印象がガラリと変わってしまう。一度読んだ後だと、セリフの端々にヒントが書かれていることに気づきます。最後の1コマは『それ町』や『フルット』と同じ作者とは思えないダークさというか、ちょっとした恐怖を感じました。

・第4話 面倒な館
いかにもミステリな『密室トリック』『館殺人』が扱われます。この話で『外天楼』の名前が初登場します。ワケありの住人が住む集合住宅・外天楼の一室で見つかった男の死体。新人刑事・桜場冴子の推理の荒唐無稽さテンションの高さが面白いのですが、ここからあの最終回につながると想像できた人は1人もいないでしょう。時系列は、1話 → 3話 → 2話 → 4話以降という感じなんですけど、その中で姿の変わらない少女がいることに、このあたりで気づいていなければいけないんだろうな。

・第5話 フェアリー殺人事件
扱われるのは『ダイイング・メッセージ』。作中の世界ではロボット技術が発達していて、観賞用の人工生命体『フェアリー』も開発されています。その存在を規制すべきか否か?という討論会場で、人工生命学の権威・鬼口獰牙が殺されます。桜場が、容疑者の名前がちょっとでもダイイング・メッセージにちなんでいったらポイントを加算していって犯人を特定しようとしたり、実際に謎を解いたのが鑑識だったり(こいつの外見もミスリードの役割を果たしている)、ミステリっぽくないテンションの高いやり取りが面白いです。ただ「芹沢博士と連絡が取れない」とか「鬼口に娘がいる」といった重要な情報が、何気ないセリフの中に隠されているのも見逃せないところです。

・第6話 容疑者Mの転身
扱われるのは『アリバイトリック』。1人の少年が鬼口を殺したと自首しますが、その供述はあいまいなものでした。この少年は、かなりのAKIRAタッチなんですけど大友克洋作品に、こういう話のものがあるのだろうか? この話では、桜場がカツ丼を取調室に持っていって自分で食べたり『故郷作戦』や『神対応』と、まだ笑えるネタがあるんですけど、ラストでロボット工学の芹沢博士の死体が外天楼で見つかったという報告が入ったことから、一気にクライマックスにむけてストーリーが加速していきます。

・第7話 鰐沼家の一族
芹沢の死から鬼口獰牙のもう1つの顔が浮かび上がり、それが第1話から登場している鰐沼アリオにつながっていることが明らかになったり、これまで散りばめられてきた伏線が次々と浮かび上がってきます。鬼口がくり返す「そういう病気なんだ」というセリフは、キリエのことを説明しているのではなく、自分のことも言っているような気がしました。しかし、鼻メガネだけで変装したつもりの鬼口はどうかと思うし、それを疑問に思わないアリオも相当なものだと思う。

・第8話 キリエ
アリオと対峙する桜場。アリオは「やることがある」と言うんですけど、これは具体的に何をしようとしていたのかが気になります。開発者を殺し資料を処分したあとは、やっぱり自分たちの存在を消すつもりだったんでしょうか? 回想の中の芹沢の言葉から、一見ストーリーとは無関係な第3話の少女や第4話で死亡していた男も、ストーリーを構成する重要な1ピースだったということに驚かされます。まあ、でも一番の驚きは、第1話からの芹沢の外見の変化なんですけど。

・最終話 アリオ
怒涛の最終回。鬼口の狂気、アリオ誕生の秘密、第5話の真相と一気に謎が明らかになっていく過程に圧倒されます。ラストの雪のシーンは、まるで映画を観ているような感覚に襲われました。やっぱり衝撃だったのは、桜場の最期。たった2ページ前では「人情派刑事路線で行けるかもしれないっス」って言っていたのに。『ザキン』という効果音と傷口から出血していないことを考えると、彼女もロボットだったんだろうか?


自分が重度の石黒正数信者だということを差し引いても、傑作と言っていいほど内容が濃くストーリー構成のレベルが高いと思います。売上ランキング1位になったり、何かの賞に輝くことはないかもしれないですが、それでも長く読まれていく作品だと思います。



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テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2011/10/23(日) 16:18:10|
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石黒正数短編集2 ポジティブ先生 の感想

石黒正数短編集 2 (リュウコミックス)石黒正数短編集 2 (リュウコミックス)
(2010/11/13)
石黒 正数

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石黒正数短編集2 ポジティブ先生が発売されました。約10年の漫画家生活で、通算3冊目の短編集というのはかなりのハイペースなのではないでしょうか? 
19日発売のCOMICリュウにはかけかえカバーが付録につきます。個人的にはそっちのほうをつけて本棚に並べたいと思うのですが、いままでそういうモノがキッチリと本に合ったことがないので、ちょっと心配です。

月刊 COMIC (コミック) リュウ 2011年 01月号 [雑誌]月刊 COMIC (コミック) リュウ 2011年 01月号 [雑誌]
(2010/11/19)
不明

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・種
デビュー前の投稿作で、コミックビームで佳作を受賞したもの。10年11月号のリュウで別冊付録になっているので、感想はそちらのほうを。冒頭4ページがカラーに描き直されている。

・ジャスティス・ジャスト
この中ではいちばん新しい作品。いろんな能力も持つ正義のヒーローがいろんな悪と戦っているという話。この話のラストのように作者は『自分がボケて読者にツッこませる』という手法をときどきやるように思う。あと、ガイアトラス、お前だけは戦いを避けた理由がおかしいだろ!

・夜は赤い目の世界
嵐山歩鳥初登場の作品。柔道家ということは、あの髪形のモデルは谷亮子ということか。なんとなく、ガックリくる。登場する吸血鬼は姿こそ残念なオッサンだが、コウモリに化けたりといった能力は正統派なのが意外だった。そして、冒頭部分が吸血鬼を退治する伏線になっている構成の見事さ。

・ポジティブ先生
表題作でカバーも飾っているのに、まさかの4ページ。ポジティブ先生こと根賀先生のキャラはいいだけに、描き下ろしとかしてほしかった。

・ネジまで愛して
なんとなく、アラレちゃんとオボッチャマンを思い出した。作者は、あんまり鳥山明の影響は受けていないのだろうか?直撃世代だと思うんだけど。

・デーモンナイツ
なんだか憎めない悪の組織の内輪もめの話。悪者だって、人間だもの。という感じ。デーモンナイツという組織は他作品『スペースレンジャー・ゴーファイブ』にも登場している作者お気に入りの悪の軍団なのだろう。(経理部のサボテン怪人も登場している)それから、なんといってもミルダ参謀がエロい。こういう特撮関係のネタはリュウの読者層とも相性がいいはずだから、不定期連載でもしてくれないものか。

・怪奇!透明人間が来る
半透明人間の主人公が、今後完全に透明になるか、ふつうの人間として生きるかという話。この中ではいちばん面白かった。透明人間が車につぎつぎと轢かれるシーンは、直接描写はないものの(透明だから見えない)逆に想像力が働いてグロかった。あと、栗谷くんの彼女は他の短編『修学旅行』に登場している。


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  1. 2010/11/16(火) 15:16:41|
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月刊COMICリュウ 11月号

月刊 COMIC (コミック) リュウ 2010年 11月号 [雑誌]月刊 COMIC (コミック) リュウ 2010年 11月号 [雑誌]
(2010/09/18)
不明

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月刊COMICリュウの11月号が発売されました。創刊4周年記念号ということで、石黒正数の未公開短編『種』が収録された別冊付録がついてます。

・別冊付録 石黒正数の種
前半部分に収録されている『種』は第5回ビームマンガ大賞の佳作を受賞したものの、10年近く公開されなかった幻の作品。隕石の落下によって文明が崩壊した近未来が舞台。以前は会社の社長と社員だった3人(とその家族)のサバイバル生活。水を探したりコウモリを捕まえたり苦しいなかで手に入った種…。というあらすじ。10年前の作品ということなので、やっぱり『それ町』とくらべると構成とかオチが弱いかなという気がしますが、それでも男3人のやりとりなんかはテンポが良くて面白いです。
後半部分は『漫画家の【種】だったあの頃…』と題して、子どものころから大学生時代までを回想する作者の随筆録が。幼少期の藤子作品へのハマりっぷりと『それ町』第3巻のあとがきにも書かれていたコータンの存在の大きさ。それから、大学時代の中村佑介氏との出会いが印象に残りました。最後に「前半終了…」とありましたが、デビューしてから現在に至るまでの後半が公開される日は来るのか?
そして、11月13日に『石黒正数短編集2』の発売が決定。今回の『種』と『嵐山歩鳥』というキャラクターが初登場する『夜は赤い目の世界』の収録は確定。あとはウルトラジャンプに掲載された『ジャスティス・ジャスト』は確実でしょう。詳細は次号で明らかになるということです。

・本誌
いちばん驚いたのは目次コメントで『まんがの作り方』の平尾アウリが「先日やっと車の免許の取れる年になりました。」と書いていること。ということは18才になったばかりということか。年令よりも長いキャリアであろう魔夜峰央とか安彦良和といっしょの誌面に載っているというのも、なんだかスゴイことだな。

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  1. 2010/09/21(火) 16:20:10|
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響子と父さん の感想

響子と父さん (リュウコミックス)響子と父さん (リュウコミックス)
(2010/03/13)
石黒 正数

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石黒正数の最新単行本『響子と父さん』が発売されました。コミックリュウに08年から10年にかけて不定期連載された表題作全6話に加え、ネムルバカ番外篇2が収録されています。

・庭で模造刀を振り回したりするのが趣味の変わり者の父さんと、となりのマンションでイラストレーターをしている娘の響子の、親子ならではの息が合ってるんだか合ってないんだかよく分からない雰囲気の会話劇、というのが基本構成。見た目的に歩鳥-入巣ラインの響子がツッコミ役になっているのが、作者の他作品とのちがいでしょうか。

・菜箸の長さから絶妙な距離感の話につなげようとして結局遠回りになって上手く伝わらなかったり、やっぱり随所に小ネタが仕込まれていたり、一話一話で見ればクオリティが高くて石黒節全開という感じなんだけど一冊全体を通してみるとボリュームがちょっと足りないかなという感じがします。連載していた時期は『それでも町は廻っている』の月刊連載はもちろん、もう一本不定期連載を抱え、09年からは週刊連載の『木曜日のフルット』がスタート。はっきり言って、この時期はオーバーワークだったのでしょう。はじめから決まっていたであろう『ネムルバカ』とのクロスオーバーという着地点に向けて、少し急ぎ足の展開になってしまったのかもしれません。あと、ひとつかふたつ別の切り口のエピソードがあったら印象が違っていたんじゃないかと思います。

・ただ、番外篇によって『ネムルバカ』と『響子と父さん』の世界がより深まったのは、事実。たとえば『ネムルバカ』第4話で実家に帰省した鯨井先輩が実家でどういう会話をしたのかとか(それが響子流血事件?)、『響子と父さん』第6話で響子が「マスコミが家に来たりした」と言っているように、ネムルバカのラストから岩崎家がどんな状況になったのかとか、いろいろと想像が膨らみます。買ってもらったパーカーを大切にしていたり、アーティストAがCMしていたNINJAコーヒーを飲んでいたり、言葉に出さないつながりがチラリと見えるのも、細かい演出だと思いす。

・『それ町』は、手塗りそのままのカバーですが、徳間書店から発売される単行本は、パソコン着色されている。個人的には、こっちのほうが、スッキリして好きです。

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  1. 2010/03/17(水) 13:58:50|
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ネムルバカ1.5巻

石黒正数先生の漫画家生活10周年を記念した『ネムルバカ1.5巻』が付録の月刊コミックリュウ3月号が発売されました。

・『ネムルバカ1.5巻』は、単行本未収録だったネムルバカの番外編『サブマリン』のほかに作者と親交のある漫画家8名がショートストーリーやイラストを提供した同人誌的な小冊子となっています。ゲスト陣で面白かったのは、ネムルバカのキャラクターを生かしつつ宇宙船内の密室ミステリー(?)に仕上げた小原慎司とアシスタント時代のエピソードから作者の一面をうかがい知ることができるツナミノユウでしょうか。

・そして、来月号ではネムルバカ番外編その2が掲載され、3月13日には新作『響子と父さん』の単行本が発売されるという発表が。だったら、響子と父さん+ネムルバカの番外編2本を合わせて一冊にして発売すればよかったのでは?という気がしないでもない。

・リュウ本体では
ねこむすめ道草日記/いけ
敏腕!インコさん/見ル野栄司
大正野球娘。/神楽坂淳×伊藤伸平
まんがの作り方/平尾アウリ
第七女子会彷徨/つばな
アステロイド・マイナーズ/あさりよしとお
とりから往復書簡/とり・みき&唐沢なをき
木造迷宮/アサミ・マート
が面白かったです。特にどれというわけではありませんが、カワイイ女の子をかけるということは、それだけで漫画家として大きな武器になるんだなと思いました。


月刊 COMIC ( コミック ) リュウ 2010年 03月号 [雑誌]月刊 COMIC ( コミック ) リュウ 2010年 03月号 [雑誌]
(2010/01/19)
不明

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ネムルバカ (リュウコミックス)ネムルバカ (リュウコミックス)
(2008/03/19)
石黒 正数

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  1. 2010/01/22(金) 16:27:42|
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