永遠の超新星・田島列島先生3年ぶりの新作『みちかとまり』第1巻の感想です。
・第1話「たけのこひとのこニョッキッキ」の巻 山間の町に住む小学生のマリは竹やぶの中で倒れているミチカという少女を発見する(作中では名前はひらがな表記だが、分かりやすくするためにここではカタカナに)。少し経って再会したミチカにマリが「学校に行きたくない」と愚痴を言うと、ミチカがマリの姿に……。ここから大人が2人が入れ替わったことに気づかない流れや、マリになったミチカがいじめっ子の石崎に飛びかかり……というシーンは、これまでの田島列島作品にはなかったダークファンタジーな空気感に一気に持っていかれる。そんななかで「1年生がもらいゲロー」とギャグを挟んでくるというのも、隙がなくて良い。
・第2話「刑事に追われて君と夏色」の巻 下校中のマリは、謎の女性サツキと出会う。彼女が刑事で自分(の姿をしたミチカ)が石崎の目玉をほじくり返した罪で逮捕しに来たのだと勘違いする。ミチカを連れ、石崎に目玉を返そうとするのだが……。サツキとミチカを保護している佐々山のオバサンの会話からするに、あの竹やぶからはときどき少女が出現し、第一発見者が神様にするか人間にするかの判断を下すそうで、サツキが先代の竹やぶ少女で、佐々山さんが人間にすることに決めたってことなのか。では、マリはミチカに対しどういった決断を下すことになるのか? っていうのが、最終的な問題となってくるのか。
・第3話「化かされて夏」の巻 「いじめっ子に戻るのでは?」と考え、石崎の記憶の結晶?である目玉を返すことに躊躇するマリ。いったん山の中に埋めることに。そこにサツキが(超古典的な)ワナをはって待ち受ける。しかし、今は人間とはいえ、元竹やぶ少女を簡単に幻術にかけてしまうとは、ミチカの持つ能力はかなり強力なものなんだな。あと、57ページの「人間にしてもらったけど―――」からはじまるサツキの独白が、なかなかに印象的。こういうところズバッと、でも何気なく描けるのが田島先生の魅力のひとつだと思う。
・第4話「ないないない人じゃない」の巻 埋めたはずの目玉がなくなっていることに気づいたマリ。いちおう石崎の様子を確認しに行く。家の敷地内から出ないように言いつけられている石崎。こういった『境界線』みたいなものが今作のテーマのひとつなのかもしれない。人間と神、此岸と彼岸……。そして、石崎が変わってしまった責任は自分にあると思い詰めたマリは勢い余ってサツキに自首するが、乱入してきたミチカに山に連れていかれる。85ページの足を組んでいるサツキとか、89ページの首をかしげるミチカとか、こういう何気ない仕草をやわらかく描けるのはスゴイと思う。簡単にできないでしょコレ。
・第5話「やまやまやみやみ」の巻 山の中の謎空間に入ったマリは、見たことのない場所で目を覚ます。自動販売機で明かりを買ったりトンネルを進む様子が、独特の雰囲気があって不気味。マリの家に死んだ曾祖母がいたり次の話の内容なんかも踏まえると、ここは黄泉の国ってことなんだろうな。マリは、境界線を越えてあの世に来てしまったわけだが、ミチカは家の中に入れなかったり、さらに細かいボーダーラインが設定されているということが分かる。そしてミチカから、家の奥にいる氏神さまからカギをもらってきてほしいとお願いされる。
・第6話「やみやみよみよみ」の巻 マリは曾祖母から渡された酒を先祖に注ぎながら奥を目指す。ひとりだけ子供の先祖がいるけど、死因がちょっと気になる。ウンコ云々言っているけど、戦争中に亡くなった感じなんだろうか? その後に曾祖母の前に現れた職員?のデザインが、頭が花なのにちゃんと目や口があって怖すぎる。でも、ミチカの術は異界の住人にも有効なんだな。「みちか これ飲まないよぉー?」のコマがカワイイ。
・第7話「ゴッドアンドバッドエンド」の巻 家の奥へと進んでいったマリ。頭が百合?の花になっている人たちを見つけ、氏神様だと思い声をかけるのだが……。最初は4人だと思ったけど、奥に超大きい人がいて5人なんだな。そして、マリが戻ってこないことを受けてミチカは、自分も屋敷の中に入る決心をする。これで現世に戻れなくなったみたいだけど、最終的にどういうことになるのか? そして、家の中に入ったところで、先祖様たちが皆頭を下げているのが印象的。ひと目でただ者でないと分かったのか。
・第8話「帰りたい帰らない」の巻 救出に駆けつけたミチカ。3人の花人の目玉をくり抜く。マリは花びらの中に閉じ込められていたけど、花人的には、あの後どうしたかったんだろう? ずっと観察し続けたかったのか、ゆっくりと消化するつもりだったのか? そして2人は、ついに氏神様のところに到着する。1話でやっていた草を倒して家にするやつ、こういう形でつながってくるとは。
冒頭でマリとミチカが何を燃やしていたのかっていうのもポイントか。ミチカの髪が短くなっているし、マリも少し成長しているように見える。
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テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック
2023/05/23(火) 17:20:39 |
田島列島
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『水は海に向かって流れる』の小ネタをまとめてみました。
・ネタバレは嫌だ。
・元ネタを探す楽しみを奪われたくはない。
という人は注意してください。
水は海に向かって流れる の小ネタ
2020/09/12(土) 20:44:29 |
田島列島
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水は海に向かって流れる 完結となる第3巻の感想です。
・#18 わるものがかり 榊さんはジャネットと身分を偽り(偽れていない)、直達とともに元母の家へ。ついに直接対決なわけだが、ここでメチャクチャに暴れるのは本編中でも言われているとおり違うと思うし、すべてを許してまるく収めるわけにもいかないので、こういう結果になるのは致し方ないかなという感じ。当事者3人が怒りを表明すべきか、するとしたらどうしたらいいのか?ということで頭を悩ませているなか、元母の現娘だけが素直に感情に従って行動しているのが、子供らしくて良かった。
・#19 2回目の 海で感情をぶつけ合った2人は、そのまま一泊していくことに。そして、夕食を近所のファミレスで済ませようとするのだが……。まぁ、元母がノーダメージで終わるわけにもいかないだろうし、直達も怒りを(ある程度)形にできたので、いい落としどころだったのかも。榊さんと直達が初めて出会ったときに降っていた雨が海に流れ着いたことで、昔の不倫に関するアレコレにはケリがついたと考えていいか。作者は『子供はわかってあげない』同様、海で感情を爆発させがち。
・#20 雑音と約束 旅館での2人のやり取り。告白した!?ようでしていない……。みたいな感じが続くが、榊さんと直達のあいだでは、気持ちの確認はできていたのかも。ラストの「右手に雑音 左手に約束」というセリフがとても良い。あと、49ページの最後のコマとか、59ページ1コマ目の指の感じとか、こういう絵柄でセクシーさを漂わせるのはすごいテクニックだと思う。いっぽうシェアハウスではカレーパーティーが終わってもドタバタが続いていた。教授の言動がいちばん子供っぽい。
・#21 罪悪感フリー 帰ってきた榊さんは、その足で父親を(駅まで?)送っていくことに。往ったり来たりで大変そう。しかし榊父は妻に浮気されて出て行かれるし、ストーリー的にも教授に引っ掻き回されるし、不憫な役回りだな。そして榊さんは、シェアハウスを出る決心を固める。ここからは榊さんと直達の関係性が、よりフィーチャーされていく形に。それから、2人が駅に戻って来たときに泉谷兄と出会うんだけど、彼の占い師スキルとかはストーリー上で上手く生かしきれなかったなと思う。
・#22 夏至のきわみ 直達は実家に戻り、母親に過去の不倫を知っていることを告げる。当事者に大人しく内向的な人が多い(特に両方の夫)ので、母親の明るさはちょっとした救いになる。でも、この人も心に折り合いをつけるのに、かなり苦しんだんだろうな。そして直達は、榊さんがシェアハウスから出ることを知る。その前の、直達の靴を榊さんが履いてみるシーンがスゴイ好き。大きい靴がスッポ抜けないように力を入れて足を持ち上げるところとか。そして、この話では冒頭から雨が降っている。新しい流れの始まりということか。
・#23 ひかり 学校。楓ちゃんから気持ちを聞かれても、ゆるぎなく答える直達。それにしても楓ちゃんは、恋愛マンガのヒロインをはれるポテンシャルを持っているだけに、損な役回りを受け持ってしまったなという印象。藤浪さんも抜群のフォローを見せたし、学校でのエピソードをもうちょっと読んでみたかった。そして、いつもの道を引越し用の段ボールを持って歩く2人の会話が、エモくて切なくてとても良い。天気雨というのは、感情の変化のあらわれなんだろうか?
・#24 海に向かって流れてく 1年後。シェアハウスで行われる焼肉パーティーに、ひさしぶりに榊さんが顔を出す。ニゲミチ先生や楓ちゃんなど髪型が変わっているのが細かい。そして、榊さんが直達を自分の家に呼ぶ口実として使われるアイテムが『カボチャ』というのも、絶妙なチョイスだと思う。ラストのセリフ然り、その前に直達が川を見ているのもあわせて、2人の新しい物語が動き出したということか。ただ、海にたどり着くまでは、なかなかの激流が待っている気もする。
ラストのほうでムーちゃんの顔が大人びているのも、見事なワザだと思う。
テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック
2020/09/12(土) 05:01:12 |
田島列島
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『水は海に向かって流れる』第2巻の感想です。
・#10 真実と現実と炭水化物 直達、榊さん、ニゲミチ先生で外食。不倫関係の諸々について情報共有する。榊さんのほうは「波風立てずにこれまで通りに」と一貫した態度をとっているんだけど、直達のほうが、これまで榊さんが抱えていたモノを「半分持ちたい」と言うのは、やっぱり若さゆえのワガママなのかな。具体的に何をどうするかまでは考えていないんだろうし。あと、ニゲミチ先生がシェアハウスに入ることになった経緯が気になる。
・#11 お昼休みはドキドキマッチング 友人関係のこじれから昼食難民になっていた楓ちゃんに直達は、同じ美術部の藤浪さんを紹介する。その藤浪さんからの質問で、直達への恋心を楓ちゃんが自覚するシーンが尊い。いちど窓の外に視線を向けるところとか。そして直達父は、ラストのモノローグで「ちょっとでいいから自分のこと ちゃんとした人間だと思いたい…」と言っているのが、コノ~(怒)という感じ。言いたいことは分かるが、それを言える立場にいないんだぞ。
・#12 女は忘れない 前話で「彼氏とかいるんですか?」という質問に対する榊さんの「いらない」という答えが気になる直達。いろいろと情報収集をする。実家のほうのゴタゴタも手伝い(ACアダプタが頭に当たったという入院の理由がトリッキーすぎる)、直達は自分も恋愛を封印する宣言をする。迎えに来た榊さんのセリフが第1話をなぞっていて、同じように雨が降っているので、ここからが第2章のような位置づけなのかな。
・#13 餃子の夜~ギスギス・ナイト・フィーバー3~ 榊さんの過去エピソード。母親が出ていったときの家の雰囲気や、恋愛をしないと決心した出来事が描かれる。不倫事件が関わっているとはいえ、確かにこれは榊さん個人の問題で、そこに直達が入ってくるのは違う気もする。でも、教授の言う、16歳の時から止まっている「千紗ちゃんの時計を動かすきっかけになるんじゃないか」という考えも一理あると思う。
・#14 修羅と酒乱 直達の恋愛封印宣言を聞いた楓ちゃんは、榊さんに抗議する。ただ、ここは大人の余裕というか経験値の差というか、簡単にいなされてしまう。そのあと、心に修羅がいることについて泣く楓ちゃんが不憫。なんとなく負けヒロインの流れになってしまっているので、是非とも挽回していただきたいところ。榊さんは直達に焼き鳥をおごることでフォローしようとするが、ここは空回っちゃったなという感じ。
・#15 運命・証明・ぼく宿命 楓ちゃんが直達に告白(?)する。ただ直達のほうは、以前に榊さんから受けていた忠告を思い出し反省するが、あんまり楓ちゃんのことを気にはしていないんだよな。心のベクトルが、全体的に榊さんに向きすぎているんだよ。もっと他のことにも力を傾けろ。学生だろ。そして、ラストでは探偵の門司さんが登場。こういう作品をまたいだゲスト出演は、うれしいプレゼント。あと、住人同士でそんな殺人に発展するような動機を持ちあっているのか?
・#16 どは恫喝のど 門司さんが持ってきた情報は、榊さんの母親の現在の住所。直達父が依頼したものだと知り知恵熱が出たりするが、結局は直達と2人で向かうことに。その前の話し合いのときの直達が気持ちを打ち明けるシーンが良い。言われてみれば、ここに来てから知ったり起こったりした出来事に対してあまり大きく感情を動かしていなかったもんな。あと、その場面にムーちゃんもいるというのが、なんか良い。
・#17 合法!Go Home! 榊さんのお母さんは、再婚していた。つまり、榊家 → 直達父と駆け落ち → 現在の夫 という流れか。そして夫の連れ子を見て逃げたときの榊さんの「だから私たちには関係ない」という言葉が印象的。ちょっと間違ったら、2人にとっての妹(弟)がいる可能性もあったわけか。そして、シェアハウスのほうには榊父がやって来る。とりあえずニゲミチ先生と楓ちゃんが応対しているけど、こっちでは何が起こるのか?
母親と再会することで、榊さんの中で何か変化が起こるのか?
テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック
2019/12/17(火) 13:50:20 |
田島列島
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田島列島短編集 ごあいさつ の感想です。2008年から2017年まで、約10年のあいだに発表された読み切り作品をまとめたものになっています。
・ごあいさつ MANGA OPEN 第24回さだやす圭賞受賞作にして、デビュー作。口に含んだ水を虫かごの鈴虫に吹きかけるという新人離れした演出で、いきなり引き込まれてしまう。「どうも獰猛」みたいな言葉遊びも面白いが、姉に帰ってきてもらうための電話をかける前の、1ページ以上ゴロゴロとしているシーンも良い。『姉の不倫相手の妻との微妙な関係』というテーマは『水は海に向かって流れる』と似たところがあり、この時期から扱っているモチーフのひとつなんだなと気づく。
・官僚アバンチュール バイト先の同僚が不倫の末に失恋。相談を受けていたので、あらかじめ悲劇を防ぐことができたのではないか? と悩む。主人公と、同居している姉は『ごあいさつ』と同じ名前だけど、そのまま数年後の話ととらえていいのか、それとも別世界の話なのか。あと、作者は不倫云々のほかに、行政関係にも何か不満を持っていたんだなと感じる。
・おっぱいありがとう 主人公の坂下さんは『大人の女性だけがおっぱいを吸うことがない』という人生の真理に気づいてしまう。そこで、同僚の宮本さんにお願いしてみるのだが……。まず、この設定を考えついた時点で面白くなるのは間違いないし、実際に吸うシーンをちょっと切なく描いているのもズルい。あと、恋愛においては破滅に向かうことの多い列島作品において、結婚後に子供まで設けている坂下さんは、かなりの勝ち組だと思う。
・お金のある風景 彼氏から手切れ金30万円をもらった女性。知り合った男2人と、どう使うべきかを話し合う。たぶん本当に描きたかったのは『8千円のドロップキック』のほうだったんじゃないかと邪推してしまう。全体的にコメディ的な要素が強い話だが、積もった雪に映写機で映像を写す冒頭のシーンだけは、妙に抒情的になっていると思う。
・ジョニ男の青春 妊娠中の女性。恋人が、そのまま赤ちゃんの父親になることに、一抹の不安を覚えてしまう。そこでレンタルロボットを使って愛を確かめることに。いちおう2064年と未来の設定だけど、これほどのロボット製作とAIの技術を持っている会社が、橋の下で店を開いていて良いのだろうか? あと、なんとなく話の進め方が舞台のようだと感じた。
・花いちもんめ~おらが村にUFOが落ちた~ 農村にUFOが墜落。それに乗っていた宇宙人と、村長の娘のマツコ(・デラックスに似た人)と、FBI捜査官の三角関係が何故かくり広げられることに。『子供はわかってあげない』単行本発売時にお蔵出しの形で発表された作品だったはずなので、全体のクオリティとしては、他の作品にくらべて一枚落ちるかなという感じ。
・Not found 幼なじみの女の子から、告白をお断りする場所に同席してほしいとお願いされた男子。なんとかその場は切り抜けたものの、では自分は彼女のことをどう思っているかというと……。たしかにこの気持ちには、まだ名前がついていないかな。作者は、こういうハッキリしないあいまいな関係を描くことに非常に長けている。
ベストを選ぶなら、やっぱり『おっぱいありがとう』です。
テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック
2019/12/15(日) 13:28:10 |
田島列島
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