晴耕雨マンガ

5月は、六道の悪女たち、少年ラケット。

スペシャル 第1巻の感想



平方イコルスン初の長編作品『スペシャル』の第1巻が発売されました。トーチwebにて14年8月から連載したものがまとめられています。
また、kindleでは分冊版が3冊発売されています。



・第1話 大事な頭部
都会より田舎の高校に転校してきた葉野さよ は、常にヘルメットを着用している伊賀こもろ が尋常ならざる怪力の持ち主だということを、厚意から貸したシャープペンシルが粉微塵になって返却されたことから知るに至る。『豪の者』とか『横溢』とか『隣の新しい人』とか、相変わらずの語彙センスがさく裂している。

・第2話 持参の鬼
季節は夏。伊賀は「神」と呼ばれる扇風機に涼を求め、会藤がこぼした豆を藤村は掃除機で吸い取り、炊飯器では米が炊かれる。教室にあるこれらの家電は、すべて大石の私物なのだという。普通はここから先生が来てひと悶着。というのがパターンだが、そうはいかない展開に「…OK、なの?」と思ってしまう。

・第3話 油のおもむき
担任教師の車がガス欠になってしまったので、右手一本で押してあげる伊賀。しかし、帰路はどうするのか? ガソリンのニオイが好きだという藤村の提案で、同僚の百瀬先生から譲渡してもらうとするものの、使用していたのはハイオクだった。さらに大石が校内に常備しているガソリンもまたハイオクだった。終盤に「ハイオクやないか!」を連発する藤村に対する百瀬先生の意見が面白い。

・第4話 豆の当然
筑前の前でぶどうを食してしまった葉野は、恐ろしいほど強い力でつねられてしまう。その魔の手は、豆好きの会藤にも向けられる。第2話でも、会藤が豆をブチまけたときに背後に筑前がスタンバっているあたりが見逃せない。あと、34ページ最後のコマの、上下をベタに挟まれた筑前は、何らかの形でグッズ化していただけないものか。

・第5話 好きな形
休日。葉野は伊賀に誘われて昔のレンガ工場の煙突を観に行くことに。「棒状のものが重なっているのが好き」という、共感できそうでまったくできない絶妙なラインのフェティシズムの設定と、46P右下のコマの空気感がなんとも言えない。あと、この話ぐらいから、葉野の眉頭がギザギザし始めている。

・第6話 属し下手
教室備蓄用に、洗濯機を持ってきた大石(運搬は伊賀)。しかし、床下収納からは古い型の洗濯機がもう一台出てきた。その帰属先として、大石のためならなんでもする谷が指名されるが、担任教師が教室にくるまでに置き場所を確保することは至難の業だった。ということを、ノリツッコミする谷のテンションの高さが素晴らしい。

・第7話 かきかねて
伊賀が腕を蚊に刺されてしまう。見る見るうちに腫れ上がり、いかにも痒そうな風体に。怪力の伊賀は自ら掻くことはできないので、葉野は自分の出番では?と思うが……。道路標識に擦り付けるという痒みへの対処法も斬新だが、藤村が語った「ノスリと柿が空中でぶつかって、おっさんもマジギレ」という話の子細を聞きたい。

・第8話 順路
前話の続き。標識を捻じ曲げてしまった伊賀は、手続きのために警官に連行される。帰路についた葉野は、藤村から伊賀のことについて訊くものの、要領を得た答えは得られなかった。ここから『葉野が伊賀に怪力の由来を尋ねる』という、物語の縦軸が定められることに。その詳細が明らかになるかは定かではないが、質問をするというのが、このマンガのクライマックスになりそう。

・第9話 兵糧不足
男子トイレから『ぽりぽり』と豆を食べる音がしているのを、葉野が発見。豆の残骸は教室の床下収納から続いていた。大石は『備蓄用のいい豆』を会藤に盗み食いされたと確信。筑前を召喚し、制裁のつねりを加える。その執行中に会藤は豆を食べる喜びで、痛みとの相殺を計ろうとする。伊賀が登場しない唯一の話。

・第10話 浮きヘル
伊賀が、津軽という男子に恋心を抱いていることが、大石から語られる。津軽の姿を見ると、照れから伊賀のヘルメットが浮いていしまうという事象に葉野が並々ならぬ興味を抱くが、ことごとく大石によって阻止されてしまう。あと、津軽が教室の入退出時にその都度手袋を着用している潔癖症だということを、作中でまったく触れられていないというのが面白い。

・第11話 聖性持ちの狼藉娘
葉野は、伊賀から大石に盾突いたことを嗜められる。そして10話で取っ組み合ったあとに、大石から伊賀に関する情報の開示を拒否されたときのことを思い返す。そして、取っ組み合いが男子トイレの前で、あらぬ言葉を言っていたことから津軽から軽蔑されてしまうのだった。個人的には『聖性持ちの狼藉娘』と言う言葉の語呂の良さが、大変好み。

・第12話 骨より髪
大石の発案により、伊賀の爪を使って散髪が可能か確かめることに。被検体に選ばれた藤村は、失敗した場合『遺骨をお気に入りのガソリンスタンドに散骨』されることを望む。そこからは、どの埋葬方法がベストか?という会議に。谷が導き出した最終回答が的確すぎる。この話から葉野が髪を切りショートカットになるのだが、冒頭の被検体選びを回避するためだけの処置なのかな?

・第13話 強靭な水
伊賀が海が好きだという話。泳ぐと生態系に影響を及ぼすので、直立しているだけだが、波のぶつかり合いを肌で感じるのが好きなのだという。話の流れで伊賀は「海に連れてって」とお願いするのだが、葉野は言葉を濁した返答をする。113P左上の葉野の表情が描かれていない2コマが、なんとも意味深。単に連れて行くのが面倒だっただけなのか、海によくない思い出でもあるのか?

・第14話 観察と情報
谷は、魚の様子を観察している津軽を発見。会話を楽しむが、そこに伊賀たちが近づいていた。ヘルメットが浮かんでいる。つまり近くに津軽がいる!探せ!という、大石&葉野の行動ルーティンが面白い。しかし、釣りすら「汚い」と切って捨てる津軽の潔癖度は常軌を逸しているな。

・第15話 波
13話からの流れで、大石家所有のプールに来た伊賀(波は葉野がバタ足で起こす)。十分に満喫するものの、プールから出る方法を考えていなかった。谷を働かせることになるのだが、その過程で大石のハ虫類嫌いが明らかになり、大石との通常とは違う関係も浮き彫りになる(これまでの関係も普通ではなかったけど)。この大石―谷の関係というのも、物語の縦軸のひとつになっていくのか?

・第16話 頭脳ども
伊賀の頭脳が実は明晰だったことが、テスト結果から明らかに。葉野は勉強を教えてもらおうとするものの、藤村が自らの体験談を語り不可能だと諭す。その裏で展開される、バイクに乗った男2人を使うという、大石家のテスト結果伝達方法に驚かされる。あと、このころになると葉野の眉頭のギザギザ具合は、1話のころの面影は微塵も感じられなくなっている。

・第17話 涙に劣る嘘
筑前、落涙。その理由は会藤の首の皮が硬くなり、つねりの効果がなくなってしまったからだった。しかし、つねり現場を目撃した葉野は、会藤が一時的に仮死状態になることにより、窮地を凌いでいたことを知る。そして、すぐさま情報をリークする。この筑前vs会藤の攻防も、第3の縦軸に発展していくのかな?

・第18話 辞書の勝利
前話ラストで「一元的」と言い、この話冒頭で「一見さん」と言った葉野の言葉が理解できず、釈然としない伊賀。こういう趣向のマンガだと、家族が描写されないのがセオリーなだけに、言葉を教える役として父親が登場したのが意外だった。この話ではダミーの辞書が出てきたけど、いろいろと家に伊賀対策を施しているんだろうな。

・第19話 特別
葉野に面白い本を読ませてもらった(葉野がページをめくる)お返しとして、山中に誘う伊賀。その目的地にあったのは、伊賀の力でもビクともしない硬さを誇り地中に刺さったままの『槍』だった。でも、ところどころに突起があったり、いわゆる普通の槍とは少し趣が違う。伊賀がウソをつきながら父親の素性を語ったがために、槍の真相は有耶無耶に。

・第20話 夏の懐中
前話からの帰り道。伊賀が2週間もの期間、検査入院することが語られる。それを理由に夏休みの宿題がないことを羨ましがられると思っていた伊賀と、入院の詳細が気がかりな葉野。2人の思考が著しく剥離する珍しい話。あと入院中のイメージカットで、予備のヘルメットが枕元に常備されているのが面白い。

・おまけ漫画
ハ虫類嫌いを知られてしまった大石と、苦手なものを知られまいとする葉野の静かな攻防。吹き出しの中の、蛇顔の大石がカワイイ。


今回は、普通の青年コミックと同じB6版の大きさ。『成程』→『駄目な石』と、判型がだんだん小さくなっている。




スポンサーサイト

テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2016/04/11(月) 16:24:51|
  2. 平方イコルスン
  3. | コメント:4

駄目な石 の感想


駄目な石駄目な石
(2015/04/27)
平方イコルスン

商品詳細を見る



平方イコルスン2冊目の単行本『駄目な石』の感想です。前作『成程』から約33ヵ月を経ての発売となります。

・装丁
B5と巨大だった前作と比較すると、今回はA5版と二回りぐらい小振りになった印象。漫画の単行本然としたものの、手書き台詞のルビや書き文字の中には、読みにくいものも散見されます。

・ゲスト
白泉社から発売されている『楽園』の執筆陣が書道で、単行本タイトルの『駄目な石』と書いています。黒井緑先生と位置原光Z先生が名前に加えて学年も書いているのと、シギサワカヤ先生の作風とは違う荒々しい書体が気になりました。

・内容
楽園に掲載された11本、および『楽園web増刊』で発表された15本、加えて描き下ろし後日談2本を加えた、全28本のショートストーリーが収録されています。起がなく承から始まり、三次元的な転を見せ、唐突な結があったりなかったりというような感じです。また『成程』では半数ぐらいを女子大生が主役のエピソードが占めていましたが、今作は登場する学校を山間の高校に限定したのが特徴でしょうか。

・お気に入り
『みっとも』
髪形を教師・稲垣に注意されたことから若山さんが、あてつけに様々な髪形を試みる。他の登場人物の目は小さな点で描写されることが多いのに、しっかりと瞳が描かれて美少女であるとされているのに、イコルスン作品には珍しく反骨心を剥き出しにしているところが、非常に印象的でした。
『相討ち』
西洋の武具甲冑マニアの江見さんが、自作の槌を学校に持参。それで不意に殴打されてしまった高瀬君とともに、放課後のひと時を槌活動に費やす。それがモラトリアムな青春のうちだけに認められた特権だと分かりつつも、槌に全てを捧げようとする様が胸に響きます。
『報復上手』
基本的にはニジリー石坂と、彼に恋心を抱くクラスメイトの女の擦れ違い恋模様の話なのですが、個人的には『合唱の興が乗ってくると腕を大きく振る』成瀬さんが、気になります。『成程』における肘の汚い国木田なみのインパクトがあると思います。

・白黒
イコルスン作品では、背景が白黒2色で構成されることが多いのですが、その境目をたどることで、順番にフキダシを読むことができるというのが、非常にテクニカルな仕掛けだと思います。
イコルスン 白黒


短編集は、また1年以上の時間を経ての発売になるでしょうから、そのあいだにトーチで連載されている『スペシャル』の単行本化を強く期待したいものです。







テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2015/04/27(月) 16:27:32|
  2. 平方イコルスン
  3. | コメント:0

成程 の感想

成程成程
(2012/07/31)
平方 イコルスン

商品詳細を見る


平方イコルスン(ひらかた いこるすん)の初単行本『成程』が、先月末に発売になっています。
白泉社から発売されている『楽園』に2011年から掲載された10本、および『楽園web増刊』で発表された10本、プラス描き下ろし3本(内1本は小説)が収録されています。

・装丁とか
サイズは雑誌と同じB5版でマンガの単行本としては、かなり大きいです。『ナウシカ』とか『AKIRA』とかと同じ大きさです。ちなみに、タイトル部分とキャラクターにはツルツル加工がされていて、ベースの白い部分には、ちょっと色味のちがう白で細かい模様が施されています。たぶん、PC上では確認できないかと。

・カラー寄稿
二宮ひかる、kashmir、黒咲練導、沙村広明、雁須磨子、久米田康治、木尾士目、浅田弘幸、宇仁田ゆみ、位置原光Z、シギサワカヤ、鶴田謙二というそうそうたる顔ぶれからカラーイラスト&コメントが寄せられています。でも、大きさが8cm角の正方形なので、コレを期待して買う人は、ちょっと肩すかしかも。

・フリーハンド感
作者のブログにペンタブレットの話が出てくるのでPC上で作業していると思うのですが、全ページにわたってフリーハンド感がみなぎっています。吹き出しの中のセリフが手書きだし、コマ割りも高さが微妙にそろっていなかったり幅が一定でなかったりします。トーン処理も一切なく、制服なんかも斜線やカケアミ、ベタなどで表現しています。通常サイズの単行本だと、こういった部分が作り出す独特の雰囲気が消えてしまっていたかもしれないです。

・内容
1話4ページ程度のオムニバス・ショートストーリーで、女子高生(か女子大生)の数人グループが主人公です。まず、シュールなことが起こり(誰のか分からないヘルメットの忘れ物)、でも大げさには扱わずシレッと展開して(誰のものでもない)、そのままフワッと終わってしまう(匂いフェチにはたまらない一品)というのが、基本形でしょうか。エピソードが1~10で構成されているとすれば、そのなかの4~7だけ(話によって、その割合は違うけど)を見せられたような

・お気に入り
個人的にイチバン好きなのは『とっておきの脇差』です。『男をめぐって女同士が殺し合いの決闘をする』のが当たり前で、友達が殺されたというのに事後処理を淡々と進める付添いの女性2人とか、日常と非日常の混在具合がが絶妙で、わずか6ページだというのに何度も読み返したくなります。
成程
この鎖鎌が使えていれば…。


面白いのは間違いないのに、それを説明するのがとても難しい作品です。



テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2012/08/13(月) 18:10:29|
  2. 平方イコルスン
  3. | コメント:0

FC2Ad