晴耕雨マンガ

6月は、トクサツガガガ

ゴーグル の感想

ゴーグル (KCデラックス)ゴーグル (KCデラックス)
(2012/10/23)
豊田 徹也

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“世界のトヨダ”こと、豊田徹也の単行本『ゴーグル』が発売されました。四季賞受賞作の『ゴーグル』から先月号のアフタヌーンに掲載された『海を見に行く』まで、約10年の間に発表された短編がまとめられており、前作『珈琲時間』から約2年10ヶ月ぶりの新刊ということになります。

・スライダー
空き地で失業者、フリーター、小学生の3人が野球をしているという藤子不二雄的な出だしから、ホームランで窓ガラスを割った廃屋で貧乏神と出会い、クビにした社長に復讐を果たそうとするという星新一的な展開を見せる。『アンダーカレント』や、この本の中だと『ゴーグル』のように、ちょっと重い人間関係を描いた作品があるだけに、こういうハチャメチャなコメディ物は逆に意表を突かれる。特に、落雷する場面のぼかしたタッチ → 驚く人間たちの顔 → 轟音とともに砕ける窓ガラス → 停電の中騒ぎまわる人間とたちと静かな神様の対比 という流れのテンションの上下動が面白い。作者もあとがきで書いているけど、このタイトルでこの内容を予想するのは無理。

・ミスター・ボージャングル
『アンダーカレント』『珈琲時間』にも登場した、探偵の山崎が主人公。結婚式をひかえた女性から、子どものころに家族ぐるみでお世話になった『ボーさん』という人物を探してほしいという依頼を受ける。しかし、調査を続けるうちに、ボーさんの意外な人物像が明らかになっていく。人間というのは複雑なもので、それを受け止める第三者によって違った形を見せるものだと思った。あと、足が速い女の子は『珈琲時間』の1エピソードに出てきた女の子だと思うが、ちがうだろうか?

・ゴーグル
四季賞受賞作であり、作者のデビュー作でもある作品。選考員だった谷口ジロー氏に「ほとんど完璧」と言わせるほど内容の濃い一作。作者は「コンテを描いたのが'90年代半ばくらいなので認識が相当古いと感じた」と、あとがきに書いてあるが、そうは感じられない。村田の乗っている車の形とかパチンコ屋の外観に時代を感じるが、それも特に気になるほどではない。むしろ、いまの時代のほうが『子供の心の痛み』みたいなテーマが合っている気さえする。だから最後のセリフは、流れ的には田村が言っているんだろうけど、ひろこが言っているというふうに読むと、これからに希望が持てて救われた気持ちになる。

・古書月の屋買取行
『アンダーカレント』の主人公、かなえと堀が古書店と古レコード屋を営んでいるという設定の2ページの掌編。それでも、キチッとオチがついているのがさすが。

・海を見に行く
『ゴーグル』の前日譚にあたるストーリー。ひろこの祖父が、馴染の焼鳥屋と躾の話をしているシーンが、とても印象深い。彼が、もう少し娘に対して言い聞かせるような育て方をしていたら、ひろこは虐待されていなかったかもしれない。だけど、ひろこにとっては祖父は大切な存在で…と、いろいろと考えさせられる。ゴーグルは、すでにひろこが頭に着けているが、ワークシャツを祖父が着ているのも見逃せない。

・とんかつ
銀行の検査部に務める諏訪さんが、15年前の融資の担保物件が架空だったかどうかの証言を得る代わりに老人の思い出のトンカツを探すという、美味しんぼのような話。諏訪さんのクルービューティーぶりが素晴らしいし、最後に謎のトンカツの正体が明かされる流れもイイ。『アンダーカレント』を読んだときにも思ったが、この作者の漫画を読むと映画を見た後のような充実感に満たされる。ただ、坂井さんがタクシーから死んだ息子の姿を見つけて駆け出していくシーンは、なんとも言えないさびしい感情が湧き上がってくる。


帯に『在庫一掃大放出!』とあるように、これで作品ストックがない状態に(たぶん)。この人の場合は『次の単行本はいつか?」ということより『次の作品発表はいつか?』という心配をしなければいけません。


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テーマ:漫画の感想 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2012/10/25(木) 18:55:02|
  2. 豊田徹也
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珈琲時間 の感想

珈琲時間 (アフタヌーンKC)珈琲時間 (アフタヌーンKC)
(2009/12/22)
豊田 徹也

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豊田徹也の新作『珈琲時間』が、個人的に最も完成度の高いデビュー作と思う『アンダーカレント』から4年の歳月を経て発売されました。

・まず、こぼしたコーヒーが滲んだような表紙のデザインが大変素晴らしい。個人的な表紙デザイン大賞を贈りたいと思います。1話12Pの短編が17本収録され毎回コーヒーが出てきますが、ウンチク的なモノはほとんどないので、そういった期待はしないほうがイイかと。あくまでも、コーヒーというアイテムのあるショーストーリーです。
あまりレビューするブログもないと思うので、全話の感想を短く。

・第1話 Whatever I want
この一冊の中心を担うチェリスト夏美とインチキ臭いイタリア人アントニオ・モレッリの話。湧き出るようにウソをつく才能にはちょっと憧れる。結婚詐欺師の手口ってこんな感じなのかと思った。オチになる映画のパンフレットが序盤にさりげなくあるのがウマいと思った。出てくるのはブレンドとエスプレッソ。

・第2話 カプチーノ・キッド
『アンダーカレント』にも登場した探偵の山崎と子どもの依頼主の話。山崎は作者のお気に入りのキャラなんだろう。他の話にも言えるが、短いページ数のためか詳しい説明を省くことが多い。出てくるのはカプチーノとコーヒー。

・第3話 すぐり
すぐりは、カシスのこと。欠点豆を取り除いたり自家焙煎したり、いちばんコーヒーの雑学がある話。はるみの思春期の悩みというか心のざわめきみたいなものが、ちょっとした会話の中からうかがうことができるのが面白い。出てくるのは自家焙煎コーヒー。

・第4話 ロボット刑事
謎のロボット刑事(?)を連れた暴走刑事の話。ガチャガチャした展開から、静かな雰囲気の最後のページへの落差が面白い。出てくるのはグァテマラと紙コップのコーヒー。

・第5話 KIKI The Pixy
なんだか複雑な親子関係の話。ヒマワリ畑とか海辺で待つ老人とか、なんか元ネタになっている映画とかがありそう。出てくるのはアイスコーヒー。

・第6話 Hate to See You Go
組みぬけしたヤクザと追っ手の男の話。拳銃を構えたまま昔の思い出を語るのだが、個人的にはいちばんハズレの回。出てくるのはインスタントコーヒー。

・第7話 深夜+1
女のマンションにあがっていい雰囲気になるのかと思いきや、いろいろと邪魔が入る話。ず~っと泣いたり叫んだりしている展開だから、最後の男の一言がイイ。コーヒーが出てこない唯一の話。

・第8話 リトル・ガール・ブルー
自暴自棄な女の子の話。父親を刺したあとの感想が妙にリアル。少女を助けるおじいさんが実は警察じゃなかったら、なんか怖い話になりそうだけど、それは考えすぎか。出てくるのはベトナムコーヒー。

・第9話 Where are you
チェリスト夏美とモレッリが再登場。犬がホームレスになった主人のために食べ物を盗むのだが『星守る犬』とか『ヘレンesp 1 (少年チャンピオン・コミックス)』にも似たエピソードがあるし、こういうのが流行っているのか。ラストの部分は、いろいろ解釈できそう。出てくるのはエスプレッソとウインナ・コーヒー

・第10話 冬の波乗り
探偵の山崎が再登場。火村と水木の関係がよく分からないから、ちょっと理解しにくい。最後は「コーヒーをわかしてください」 → ポットの下の書類を見させる。 → サインしてある。 っていうことなのか。出てくるのはコーヒー。

・第11話 きりん
いちばん謎の話。ファンタジーと言っていいのかシュールというべきなのか、判断に困る。たんに「キリンは獰猛」っていうことを言いたかっただけなのか。ラストでコーヒーを飲んでいる人たちはいるが種類は分からない。

・第12話 CHOPPED TOMATO PUREE
離婚しようとする夫婦の話。男のほうが『アンダーカレント』で蒸発した旦那を連想させる。モブに他の話の登場人物たちが紛れている。出てくるのはコロンビア・スプレモア。

・第13話 田中ブックカフェ
謎のブックカフェを取材する話。ブックカフェの主人が、作者自身かごく近い人物がモデルのような気がする。出てくるのはカフェラテだけど、台所の三角コーナーから拾ったヤツ。

・第14話 夢
昔の夢をよく見るようになってしまった男の話。最後、目を覚ましてから家の中に誰かいないか探すところは、ちょっと胸に来るものがある。出てくるのはアイスコーヒー。

・第15話 Lost In The Flood
水没した世界の話。普通に読むのと、登場人物全員が武器を手に持っているのを気づいた上で読むのとでは、会話の意味が違ってくるのが面白い。出てくるのはコーヒー。

・第16話 うそつき博士
第1話に出てくる映画と同じタイトル。ちょっとファンタジーっぽい雰囲気もあるし、映画の中の話と思っていいのかも。出てくるのはコーヒー。

・第17話 Any Day Now
いままでのキャラが総登場してにぎやかにフィナーレ。という感じ。出てくるのはミルクティー、エスプレッソ、カフェラテ。

・全体的な印象を言えば、前作に比べてよりマンガっぽくなったという感じでしょうか。線がしっかりしてスクリーントーンが増えて、コマの密度が濃くなった気がします(B6版の影響かも)。スパッとオチがつくというよりも、コーヒーのある日常の一部分切り取ったような、マンガとしてのエピソードは終わっても登場人物たちの生活は、まだ続いているような、余韻の残る終わり方が多いです。

・非常に寡作な作家なので次回作がいつになるのかまったく分かりませんが、また深みのあるストーリー、できれば長編を発表してくれることを、首を長くして待ちたいと思います。

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  1. 2009/12/25(金) 10:18:57|
  2. 豊田徹也
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